平成29年度 高等学校卒業証書授与式 校長式辞

本日は、東京都立白鷗高等学校第七十回卒業証書授与式にあたり、多数のご来賓の皆様、保護者の皆様のご臨席をたまわりましたことを、はじめに高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

8期生の皆さん、卒業おめでとうございます。今二二九名の皆さんの誇りに満ちた姿を見るとき、本当に感慨深いものがあります。

皆さんは縁あってこの白鷗で学び、長く受け継がれてきた「辞書は友達、予習は命」の合言葉のもと、たゆまぬ努力で確かな学びを獲得し、悩みや葛藤の中にも生涯忘れえぬ思い出やかけがえのない友を得たことと思います。そしてそれぞれが自分の進路を切り拓き、今日新しい道へ踏み出します。皆さんは、都立の中高一貫教育校という新しい枠組の本校を選んで入学してくれました。とりわけ、高校から入学した皆さんは、既に学校生活に慣れている生徒の中に、新しい風を吹き込んで開かれた集団にしてくれたと思います。

体育祭、白鷗祭、合唱コンクールの三大行事や部活動、台湾への修学旅行など、多くの思い出が皆さんの心に刻まれていると思いますが、中でもリオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックにおけるトランスフォーマ・コネクション・プロジェクトは、日本の高校を代表し、8期生の皆さんが中心になって取り組み、素晴らしい成果を挙げました。8期生が校庭で作った「ありがとう」の意味の人文字「OBRIGADO」が、リオのオリンピックの閉会式において、次期開催国の日本の紹介ビデオの中で流れたことは、忘れられない出来事の一つでしょう。

さて、皆さんはこれから高校を旅立ち、自立の道を歩むことになります。それはすなわち、個としての自分自身のアイデンティティーを確立する道ということです。学校にいる間は、たとえばテストで多くの人が平均点というものを意識していたでしょう。けれども平均点とは、統計上は意味があっても、誰のものでもない点です。皆さんは統計上の平均を生きるわけではありません。一人一人がかけがえのない自分自身を生きるのです。この国は特に同調性への圧力が比較的強い文化です。他の人と同じであることで安心したり、他者にもそれを求めたりする傾向があります。しかし唯一無二の個としての自分を、集団における比較においてのみ意識するのではなく、なりたい自分を是非追求してください。

私は人が生きていくために本当に必要なことは3つだといつも考えています。

一つ目は、誰かをあるいは何かを心から愛すること。二十世紀後半、日本で最も愛読された海外作家の一人であるフランスの作家アルベール・カミユの言葉に次のようなものがあります。「愛されないことは単に不運でしかない。愛さないことこそ不幸である。」愛することはよりよく幸福に生きるための鍵であるということだと思います。皆さんが「そのような愛の対象を見いだせることを祈っています。

二つ目は、自分が正しいと信じることを勇気をもって貫くこと。人が自分の行動で最も自尊心を傷つけられるのは、正しいと思うことを曲げなければならない時だと思います。「うまくやろうと思うな、正しくやろうと思え」これは私が先輩から教わった言葉です。皆さんには生涯正義を重んじる人であってほしいと思います。そしてその正しいことをするためには、周囲を巻き込み協働的に行うことがとても大切です。その意味で、皆さんには周りを納得させることができるタフ・ネゴシエーターになってほしいと思います。

そして三つ目は、思いどおりにならない時に簡単に折れてしまわず、柳のようにしなやかな心をもつこと。これが一番大切で難しいことかもしれません。失敗や挫折は人生につきものですが、そこから学んだり成長したりすることができるものです。柔らかい心をもっていれば、見えてなかったものに気づいたり、発想を転換させたりすることができます。正しさの追求の中にも、是非そのようなしなやかさを失わないでほしいと思います。

皆さんは、能力やあるいは環境・機会というものに恵まれた人々だと言えると思います。そして皆さんには、その環境や機会を生かし、能力を最大限に伸ばして、幸せな人生を送ってほしいと私は心から願っています。一方で困難な状況にあって正しさを追求することの難しい人々の痛みや苦悩に心を寄せながら、それでもなお理想に近づけるよう、正しい道を歩めるよう、共に手を携え人々を導くことのできる人であってほしいと願っています。

世界には、違いを認めようとしない排他的な空気や憎悪が広がっているようにも見えます。しかし多様であることを認める社会というのは、私たちが生きやすい社会だと私は思っています。これまでも折にふれて皆さんにこのことを話してきました。皆さんは、自分は何者なのかというアイデンティティーをしっかりもちながら、異なる価値観を認め、ダイバーシティ(多様性)を互いに尊重し合えるよう、自分だけでなく周囲の人々をも巻き込み、理想とする社会の実現に努めるリーダーに成長することを願ってやみません。

さて、保護者の皆様、本日はお子様のご卒業誠におめでとうございます。これまで深い愛情でお子様の成長を見守ってこられた皆様にとりまして、今日の佳き日は、本当に節目の時でもあり、大きな安堵と喜びの日であろうと拝察いたします。これまで生徒の皆さんと過ごしてきて、その真面目でひたむきな姿に私の方が救われる思いを抱くことがたくさんありました。これも保護者の皆様の慈しみのたまものと感服いたします。これまで本校の教育方針にご理解とご協力をたまわり、本当にありがとうございました。保護者の会である「双鷗会」の皆様には、中高一貫教育校としての学校づくりを支えていただき、感謝の念に堪えません。引き続き、「後援会」としてご支援をいただければありがたく存じます。また、ご来賓の皆様をはじめ、近隣の皆様には、本校の成長を温かく見守っていただき、多くのご声援をたまわりました。あらためて深く御礼を申し上げます。

センター試験の前日、8期生の皆さんの健闘を祈って片目を描き入れた高崎ダルマに、今朝早く、大願成就を祝い、両目を入れました。試験の結果がどうあれ、皆さんは全員が学びにおいて勝者です。勉強の努力は決して皆さんを裏切ることはありません。真摯な努力によって身に付いた学びは、必ず皆さんのこれからの人生で助けとなってくれるはずです。白鷗の良き伝統であるひたむきな学びをどうかこれからも続けていってください。

今皆さんは、卒業して新天地へはばたく喜びと共に、別れの寂しさを感じてもいることでしょう。生徒としてはお別れですが、同窓会である「鷗友会」を通じて、これからも本校に心を寄せてくれると期待しています。今年創立130年を迎える歴史と伝統ある白鷗高校の卒業生としての誇りを胸に、白き鷗のごとく美しく飛び立つ皆さんを見送り、白鷗はこれからもずっと皆さんの母校としてここにあり続けます。

卒業生の皆さんの健康と幸せを願い、また本日ご列席の皆様の益々のご健勝とご発展を祈念し、私の式辞といたします。

 

平成三十年三月十日

東京都立白鷗高等学校長 善本 久子